Interview インタビュー

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高橋 鐘汰氏 インタビュー

高橋 鐘汰

仙台フィルハーモニー管弦楽団オーボエ奏者として活躍中の高橋鐘汰氏に、マリゴとの出会いやリードなどについてお話をうかがいました。

どうやってオーボエをスタートすることになったのでしょうか?

小学4年生の頃、3つ上の姉が吹奏楽部でフルートを始めました。
それを見て、僕も何か楽器をやってみたいと話をしたところ、「実は納戸にオーボエがあるよ」と、母が音大でオーボエを専攻していた際の楽器を出してくれました。
親子ではやらない方が良いという方針で、母からの手ほどきは無しで(笑)
知り合いの音大卒の方に持ち方から教えてもらって、HINKEや梅原美男さん著の黄色い表紙のエチュードから始めました。

中学の吹奏楽部でも演奏を続けて、そのまま音楽科のある高校に進もうと思っていたのですが、両親から「他にやりたいことが見つかるかもしれないし…高校までは普通科にしよう」と言われ、折衷案として吹奏楽コースのある大阪桐蔭高校に進学しました。
休日はテスト休み以外に年末年始の3日間だけ、ずーーっと楽器を吹いて過ごして、吹奏楽に明け暮れました。
ダブルリードパートは各学年1〜2人と少数精鋭で、とても高いレベルの中に身を置くことができました。

高橋 鐘汰

そこから本格的に音楽の道を選んだのは、どんなきっかけがあったのですか?

高校2年の時、京都市交響楽団の高山郁子先生のレッスンを受け始めました。
高山先生から毎年夏に開催されている、トーマス・インデアミューレ先生が講師を務める草津夏期国際音楽コンクール&フェスティヴァルを勧められて高校3年生の夏に参加してみたら、すごく良かったんです。
高山先生と言っていることは同じだけど、トーマス先生は違うアプローチから教えてくれて、「オーボエってこうやって吹くのか」という理解が深まりました。

そこで、トーマス先生に「高山先生のもとで4年間勉強してからあなたのところに行きたい」と話をしたら、「僕の定年が近いから早くおいで」と言われたんです(笑)

今すぐドイツ語の勉強をするように言われ、「あとはこの人に聞きなさい」と当時カールスルーエ音大の学生だった 上原朋子さん の連絡先を教えられました。

えぇぇ!あまりに突然!(笑)

その場ですぐ電話をして、入試の仕組みやクラスのことを聞きました。
勇気を出して、全く知らない人に「留学したいんですが…」と電話をかけました。

親御さんにもお話しないままですか…!?

そういえば、親にも言う前に上原さんに電話していましたね(笑)
自宅に帰ってから両親に話したら、すんなりと受け入れてくれました。
両親はいつもやりたいことを応援してくれます。

その後の暮らしは激変しましたか?

当時カールスルーエ音大は、4年制の学部に入るには、受験時にB1→入学から1年以内にB2を取得する必要がありました。
すぐに語学学校に申し込んで、高校の授業が終わったらドイツ語学校に向かう日々になりました。
高校を卒業してすぐの4月にドイツに渡ってフライブルクの語学学校に通い、B2まで取得しました。
そして高校を卒業して1年半後の19歳で、カールスルーエ音大に入学しました。

※B1・B2→ドイツ留学に必要な語学資格のレベル

高橋 鐘汰

“こうなりたい”を強く持てるようになった学生生活

高校卒業後すぐに留学する方は、まだあまり多くはないですよね。

日本人も含めて、周りは年上の方が多かったです。
トーマス先生はしっかりとオーボエの理論を持っている、素晴らしい教育者です。
“こうやったらこうなって、こうできる”という理論を詳しく教えてくれるので、「オーボエって簡単!」と思えるようになるんです。
そして1人で練習している時にも、その通りに確かめられるので、定着しやすいです。

高橋 鐘汰

特に印象的なレッスンはありましたか?

トーマス先生がグループレッスンでよく取り組む“リードのエクササイズ”があるんです。
リードだけでCisの音程を出すことを基準に、オーボエでこの音域はリードだけだとこの音で、口の中や喉の支えはこうなっていて、舌の位置はこうで…と様々な感覚を結びつけていくエクササイズです。
先生の言う通りにすると、きちんとそうなるんですよね。
全オーボエ奏者に知ってほしい理論です。

Thomas Indermühle | Official | プレイリスト

他の先生のレッスンを受けることもありましたか?

年に一度外部の先生がレッスンをしに来てくれる機会があり、そこで出会ったイスラエル・フィルハーモニー交響楽団首席奏者のドゥドゥー・カルメル先生は印象的でした。
トーマス先生の元生徒で、M2を吹かれているのですが、圧倒的に美しい音で…理想的な音色をされています。
トーマス先生は、ある程度基礎が固まってきたら、「他の先生のところに行っておいで!」と送り出してくれるので、多くの方のもとで勉強させてもらいました。

専攻のレッスン以外はどうでしたか?

たくさん室内楽のアンサンブルをしましたね!
木管五重奏やトリオダンシュだけではなく、ピアノや弦楽器の入った曲や珍しい編成のプロコフィエフの五重奏曲もやりました。
他の楽器の先生のレッスンも受けられて、たくさん新しい発見がありました。
年齢関係を気にしない環境なので、大学院生や国家演奏家資格クラスの人とも一緒に演奏できて、たくさん勉強できました。

あと、オーボエクラスにはチェンバロのコレペティトールもいたので、ゼレンカやクープランの同族アンサンブルもしましたね!

※歌劇場などでオペラ歌手やバレエダンサーにピアノを弾きがら音楽稽古をつけるピアニスト。ヨーロッパの音楽学校には専門科目ごとに多くのコレペティトールが所属している。

高橋 鐘汰

オーケストラの中で楽器を鳴らす

仙台フィルハーモニー管弦楽団(以下仙台フィル)に入られたのが2022年、もう3年目になられるのですね。

留学の終盤、ちょうどコロナ禍に重なり日本に帰ってきました。
実はずっと“日本に帰って日本のオーケストラで仕事をしたい”と思っていたので、その希望とも重なって完全帰国を決めました。

仙台フィルはどんなオーケストラですか?

指揮者の小さな動きも見逃さない、とても反応の早いオーケストラだと思います。指揮者によって音が変わって、その場その場に合わせてサウンドを作る印象ですね。

実は最初は結構苦労したんです…。
ドイツでもアカデミーには所属していましたが、演奏回数が多いわけではありません。
なのでオケをやり始めたのは、ほぼ日本に帰ってきてからでした。

高橋 鐘汰

例えばどんな部分で…?

トーマス先生は音列に対してとても注意深くレッスンされるので、その点は普段からかなり耳を傾けて音楽を作っているのですが、ソロや室内楽では問題がなくても実際にオーケストラの中で吹いてみると、手元では音列が揃っているのに録音を確認すると弦楽器混じってしまっている音とそうでない音があって、メロディが歯抜けに聞こえてしまっている部分があり、そこを改善するのにとても苦労しました。仙台フィルでは2番パートを演奏することがメインではありますが、三分の一は首席の西沢さんの代わりに1番を演奏します。イングリッシュホルンを演奏することもあります。
どちらかだけができれば良いわけではなく、頭の使い方やリードの設計、その場に応じた適応方法などを考えています。

リードや楽器といった持ち物を替えるのではなく、自分の持っているものでいろいろなことができるように、オケでも吹けるしソロもできるという方向を目指して模索しています。

マリゴとの出会い

マリゴを吹いてるのは、いつからですか?

母の楽器でオーボエを始めて、中学1年生の終わりに初めてのマイ楽器としてマリゴ901を手にしました。
その楽器で中高も過ごし、留学中の一時帰国期間にM2を購入しました。

メーカーもモデルも絞らずにいろいろ吹きましたが、M2を初めて吹いた時にとにかく音の密度と音色の柔軟性に感動を覚えました。
ジョイントが上部にあることによって楽器の重心が上の方に片寄っていて、そのおかげで口への乗っかり方が違ったり、ベルの重さを感じづらかったり、音列も揃うし…これだ!と思いました。
最後は高山先生に吹いてもらって決断しました。

トーマス先生のところで基礎を学びながら、自分はこうやってみたい、こんな音を出してみたいという理想もしっかりと描けていました。
そのイメージに合わせて、素直に選ぶことができました。

高橋 鐘汰

今も学生時代に購入したM2を吹かれているのですか?

楽器本体はそうです。
でもヘッドジョイントは3本目ですね。
響きが少し低いと感じる時や寒い場所での演奏にはSを使うこともありますが、いつもはMを使っています。

ヘッドジョイントの買い替えは、何がきっかけですか?

まろやかな音がするけど、混ざりすぎてしまうというか、音の輪郭がぼやけてきたと感じたことですね。
音を通したいと思って吹き込むと散ってしまうように感じて、楽器の密度が落ちてきているように思ったので新しいジョイントを試してみると、鳴りと輪郭が一気に変わりました。

ジョイントを変えるだけでも、特定の音の音程に作用したりするので気をつけて選ばないといけないのですが、楽器ごと変えるほどの重大な変化ではないので、最小限のストレスで新品のような響きを得られるのは、M2の大きな利点ですね。

ジョイント

リードについても教えてください!

帰国してオーケストラの仕事を始めて1年間くらいはオーケストラに合うようなリードを制作するために、前のリードと新しいリードの両方を持って行って、毎公演新しい設計を試すような生活でした。

リード

シェーパーは?

長年ロレーの-2番を使っています。僕の場合はより広くしたいので乾いた状態でシェイピングしていますね。
日本では大きめのシェーパーと言われていますが、世界的に見れば使っている人が多く、フランソワ・ルルーやラモン・オルテガ・ケロも使っていると聞きますね。
音の太さや響きのふくよかさに良さがあり、支えを作りながら吹く感覚で演奏すると音色の幅が広がる良い型ですよ。

オケもソロも室内楽も、なんでもやりたい!

いろいろ挑戦された国際コンクールのお話もぜひお聞かせください。

国際コンクールの特徴は、取り組むレパートリーの幅が広いことでしょうか。
バロックから現代作品まで、10曲以上が課題にあることも…。

あと、必ず本選でオーケストラと演奏することになります。
ピアノと一緒に演奏して映える奏法と、オケ伴奏で上手くいく奏法の両方を知らないといけないですね。

実は初めて本選に残ったプラハの春国際音楽コンクールで大失敗したんです…
オケとのリハは短く、そしてピアニストのように自由に合わせてはくれません。
こんなに何もできなくなるのかとびっくりしました。
オケの都合を理解した上、自由に音楽をする…そんな切り替えが必要でした。

高橋 鐘汰

高橋さんの理想とは…?

なんでもできるようになりたいです!
例えば、楽器の特性上難しいとされることが多い低音の小さい音は、オーボエの弱点とされることが多いですが、周りの方にそう言われてしまったら負けだと思っています。むしろダイナミクスや表現の幅で共演者を困らせたい(笑)
クラリネットのppと対等に張り合いたいし、オケ中で埋もれない音色を作りたいし、音色の幅を作りたいし…自分の中にある音をそのままオーボエでどんな音でも出したいです。

日々どんな練習をされているでしょうか。

そう考えると、トーマス先生のエクササイズに戻ってきますね。
毎日コンディションを整えて、いかに楽に自由に演奏できるかを気にかけています。
自分の仕事の内容も偏らないように、いろいろな音が求められる現場に積極的に行くようにしています。

近々のご予定は何かありますか?

4月9日に、仙台フィルの“名曲トラベル”公演で、J.S.バッハの「オーボエとヴァイオリンのための協奏曲」のソリストを務めます。
大人気シリーズの企画で、楽しみにしています。

ソロもやりたいですねぇ。
リサイタルもいつか…

高橋 鐘汰

ぜひ仙台だけでなく、高橋さんの地元兵庫や東京でも、お願いします!!

仙台フィルハーモニー管弦楽団【公式】サイト

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兵庫県猪名川町出身。9歳よりオーボエを始める。
私立大阪桐蔭高等学校を卒業後、渡独。カールスルーエ音楽大学を経て、フライブルク音楽大学大学院に進学。
ラインラント=プファルツ州立フィルハーモニー管弦楽団アカデミー、ユンゲ・ドイチェ・フィルハーモニーを経て、現在、仙台フィルハーモニー管弦楽団オーボエ奏者を務める。
これまでにオーボエを土井恵美、中山和彦、古部賢一、高山郁子、トーマス・インデアミューレ、フィリップ・トーンドゥル、ルーカス・マシアス・ナヴァッロの各氏に、イングリッシュ・ホルンをアネッテ・シュッツ、フロリアン・ハーゼルの各氏に、バロックオーボエをスザンネ・レーゲル氏に師事。
第12回国際オーボエコンクール・東京奨励賞、第71回プラハの春 国際音楽コンクール審査員特別賞受賞。第19回キエリ国際音楽コンクール最高位(第2位)入賞など、国内外のコンクールで多数受賞。
2017年 CD「イサン・ユン:室内楽作品集(レーベル:Capriccio)」の録音に参加し、"オーボエカルテット"及び、"東と西の小品"を収録。
【使用楽器:Marigaux Oboe M2】