関 美矢子氏 インタビュー

札幌交響楽団首席オーボエ奏者として活躍中の関美矢子氏に、マリゴとの出会いやリードなどについてお話をうかがいました。
- インタビュー・テキスト:舩津美雪
- 会場:ノナカ・アンナホール
いろいろなものを試して探してきた学生生活
オーボエとの出会いからお聞かせください。
中学の時です。姉のクラスメイトに吹奏楽部の方がいて、たまたまその方がオーボエだったんです。「あの先輩優しいから、オーボエにすれば?」・・・それがきっかけです(笑)

そんなきっかけは初めて聞きました!(笑)
初心者は音が出しにくい楽器だと聞いていたのですが、最初から音が出て!これはいけるかも、とすんなり決まりました。
顧問の先生はチューバ吹きでしたがオーボエが好きだったようで、R.シュトラウスの「サロメ」やバルトークの「舞踏組曲」などオーボエが活躍する曲をたくさん経験させてもらいました。
芸高に入学してからは新しく知ることだらけで、様々な課題に取り組む日々はとても楽しい時間でした。日常の会話だけではなく音楽の深い話まで、何の話をしても友人との共通の話題になるのは嬉しかったです。
そうそう、高校の授業で初めてオーケストラというものを体験しました。
弦楽器がふわっと鳴っている中でオーボエを鳴らすことに、初めて“怖い”という気持ちが芽生えました。オーケストラというものは格が高い気がして、背伸びをして演奏しているような緊張感を感じていました。
その後、東京芸術大学に進学されましたね。
芸大での4年間は全く手応えを感じることができず・・・暗黒期でしたね(苦笑)
学生の間は自分に合うものを探して取り入れる段階と思って、いろいろな場に行って吸収しようとしていました。最初から自分に合うものが分かっている人もいると思いますが、私自身はそうではなく、いろんなものを試してきたタイプです。
いろいろなことを知って理想は高くなっていくのに、自分はそこに全然近づけない・・・リードを作り始めたこともあって、それに時間を取られるなど練習もなかなか捗らず、オーボエが全然楽しくなくなってしまいました。
その後イタリアに行かれたのも、そんな中での出会いだったのでしょうか?
“イタリア”に初めて触れたのは、大学1年の時に浜松国際音楽アカデミーに参加して、パオロ・グラツィア(ボローニャ歌劇場管弦楽団首席奏者)先生のレッスンを受けた時でした。
伸び悩んで気分が落ち込んでいる中、レッスンをきっかけに明るくポジティブに音楽に向き合えるようになりました。
“イタリア”に対して、とても良い印象を持たれたのですね。
その後、当時ミラノ・スカラ座管弦楽団の首席だったフランチェスコ・ディ・ローザ先生の講習会が日本で開催されるチラシを見て、「これは行くしかない!」と思って参加しました。
先輩からCDを借りて聴いたことがあり、とても好きな音色だったんです。
先生はすごくきちんとされたお人柄で、演奏に関しても忠実に慎ましく、教え方も織り目正しく整っていてとても充実した講習会でした。
その後、大学卒業を控えて大学院への進学か留学かと悩んでいたところに、先生から「サンタチェチーリア国立管弦楽団に移って、新しいクラスを持つことになった」というメールが来ました。
「これだ!」と思って、卒業式前にローマへ渡りました。

大好きなイタリア人の気質
イタリア、フランチェスコ先生、留学といろいろなピースがきれいにはまった瞬間だったんですね。
先生はとにかくオケでの信頼が厚いんです。歴代の音楽監督であるチョン・ミョンフンやアントニオ・パッパーノが先生のことを信頼しているのがとてもよく分かりました。

ぜひクラスのことも教えてください。
私が学んだのはサンタチェチーリア管弦楽団に付属しているアカデミーです。
半年毎の更新制で私は1期半年間在籍しました。
当時は10人くらいのクラスで1〜2週間に1回、オケの本拠地であるアウディトリウム・パルコ・デッラ・ムジカの裏にある部屋でレッスンがありました。
特に心に残っていることは何ですか?
やはりイタリア人のマインドでしょうか。
例えば、先生が厳しすぎると生徒が縮こまってしまうこともあると思うのですが、こちらの心の引き出しを開放してくれるような・・・そんな関係性を作ってくれました。
そして人間味あふれる空気感を持つローマという街も相まって、私にはそこでの学びがすごく合っていましたね。
オーケストラの現場で学ぶ
帰国後は桐朋学園大学のオーケストラアカデミーに所属されましたね。
オケアカでは月に1回程度の演奏会が企画されていて、1stと2ndの両方を経験できますし、試験もオーディションのような形式でとても役に立ちましたね。
また、他の楽器の先生との出会いも多く、それをきっかけに仕事をいただくこともありました。日本で仕事ができるようになったのは、オケアカがきっかけでしたね。
その後ほとんど期間を空けずに、神奈川フィルハーモニー交響楽団2nd奏者の契約団員のお話をいただきました。
オケアカ時代は月に1回だったコンサートが毎週になり、リードを作るペースや準備のスピードなど仕事をこなす経験を積みました。

2ndパートに集中して取り組んでみて、いかがでしたか。
オケの2nd奏者としての音色感を学ばせてもらいました。
例えばpを出すことを意識しすぎてしまい音色を作るのが難しくなってしまうことがありましたが、本当はただ小さく吹くのではなく、音量も含めて音色にクッションがあった方が良いと感じるようになり、いろいろ研究していました。
実際にうまくいったときにメンバーから「すごく良かった!」と言ってもらえて、手応えを感じることもありました。
ちょうどその契約期間が終わろうとする頃、現在所属している札幌交響楽団のオーディションがありました。
おおらかな風土の中で音楽と向き合う
札幌交響楽団はどんなオーケストラですか?
個性豊かな人が多くて楽しいです!
雪国での暮らしを生き抜いていくタフな方が多いです!
広い北海道中を演奏して回るのは、結構大変なものです。
そんな時にも行く先々でおいしいごはんを食べたり、大自然での鹿との遭遇を楽しんだりしてお仕事をしています。

北国で生きる皆さんの強さですね!
どんなに大雪で電車が止まっても、車がいたるところで立ち往生していても、札響のメンバーは絶対に到着するんですよ。
自慢のメンバーです(笑)
あとはKitaraホールという日本でも有数の素晴らしいホールがあることも自慢です!
前日のリハーサルもホールですることができて、整った環境の中で活動させてもらっています。
さらに数年前にはhitaruという劇場もできて、バレエやオペラもできるようになりました。
とても充実した活動ができているオケです。
素敵な活動拠点があるのは素晴らしいですね。
実は練習場も素敵なんです。
Kitaraから30分程山の方へ行ったところにある「芸術の森」というエリアの中にあるのですが、緑が綺麗でリスもいるような場所です。
札幌の市街に位置する自然に囲まれた練習場は、緑の時期には爽やかな風を感じられて、秋には甘い香りがしたり・・・私の生活にとって欠かせない、大きな癒やしをもらっています。
大好きな楽器と一緒に、成長を感じられる
今吹かれているのはマリゴの2001モデルですね。
2021年12月に娘が生まれたタイミングで、2001を吹き始めました。
音色がしっかりしていて、オケの中を倍音の層になって通るというか・・・クリアだけど中身がぎっしりとしていて、1stを演奏するのに向いている楽器だと思います。
それでいてマリゴのしなやかさを失っておらず、とても自由な柔軟性やダイナミクスの幅を持っている上に、グッと息を吹き込める感覚もあり、安定感と安心感を与えてくれるモデルです。
あとはキーポストなどに金メッキが施されているのも好みです。
華やかさがプラスされ、表面のハリが加わっている感じがして、音の立ち上がりからくっきりいけるのが良いですね。
2001にしてからずっと調子が良く、自分のベストな演奏を更新し続けてくれています。
2001を吹くようになってから「楽器に頼って良いんだなぁ」と思うようになりました。
自分で調整しようと頑張らなくても、吹いたらそれに応えてくれますし、「ここだよ〜」と良いところに導いてくれるというか…すごく自分に合っている感じがしています。

素晴らしい出会いだったのですね。
昔から、「今持っている楽器よりも良いと思えるか、そして吹きたいと思えるかどうか」を大切にしていて、そう感じたら買おうと決めています。
そのおかげか、今まで楽器を買ったタイミングで必ず上手になっている実感を得られています。
リードはどんなものを合わせていらっしゃいますか?
2001を吹くようになってからは、チューブはヘンツェのD6を使っています。
音色が太く、守ってくれているような安心感と自由さが同居しているチューブだと思います。
シェーパーは昔からリーガー4番で、ケーンは娘が生まれてからはシャンタンのかまぼこ材を使っています。

娘の誕生がもたらしてくれたもの
娘さんとの生活のご様子を取材されている動画を拝見しました。
お子さんが生まれてから音楽への取り組み方は変わりましたか?
もう今年(2025年)の4月で4歳になります!
主人は転勤族で、今は札幌で一緒に暮らしていますが、これから先もどうなるか分かりません・・・ワンオペの時期もあったりしてなかなか大変ですが、一緒に乗り越えてくれている家族にはとても感謝しています。
昔は一日中仕事や音楽のことを考えていましたが、今は楽器を吹いていない時は子どものお迎えやご飯のことが頭の大部分を占めています(笑)
以前は考える時間が長かった分、意識しすぎて緊張してしまったり・・・もうそんな時間は無くなったので安定思考が強くなり、良いように働いている部分もありますね。
楽器を吹けない時間には録音を聴いたりスコアを読んだりすることで譜読みが捗り、深く楽譜を読めるようになりました。
子どもが生まれてからの方がどんどんうまくなっているように感じていて、周りからも調子が良さそうと言ってもらえています。

娘さんがいろいろな変化をもたらしてくれているんですね。
復帰するまで不安はありましたが、今では色々なところに一緒に旅をして、もう娘は立派に旅慣れています(笑)
自分のキャリーケースを引いて、自分で空港の荷物検査を通過してくれる頼もしい子です!
オーボエ奏者として、音楽家としての日々
日課にされている練習はありますか?
音出しではタンギングも混ぜながら、多くの調性での音階練習をしています。
あとは上のDから半音ずつ降りてくるロングトーンをやって、それをビブラート付きにしたりビブラートの種類を変えたり、音量を変えてみたり・・・日によってパターンを変えながら取り組んでいます。常に息、身体、音がしなやかに使えているイメージでウォームアップしています。
日常の暮らしで大切にされていることはありますか?
心と身体の健康です!
オーボエは特に神経をすり減らしすぎてしまう楽器ですし、身体を傷めることもあります。
“楽器を吹く”にはパワーが必要ですし、それには心身ともに健康であることが大切ですね。
ストレッチをしようとか、ちゃんとタンパク質食べよう!とか心がけています。

関 美矢子
茨城県出身。東京藝術大学附属音楽高校を経て、東京藝術大学を卒業。ローマ・サンタ・チェチーリア国立オーケストラ管楽器コースにて研鑽を積む。桐朋オーケストラ・アカデミー研修課程修了。
これまでにオーボエを小沼健司、似鳥健彦、小畑善昭、蠣崎耕三、オットー・ヴィンター、フランチェスコ・ディ・ローザの各氏に師事。
神奈川フィルハーモニー管弦楽団契約団員を経て、現在、札幌交響楽団首席オーボエ奏者。北海道教育大学岩見沢校、札幌大谷大学にて非常勤講師を務める。
【使用楽器:Marigaux Oboe 2001】