Interview インタビュー

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ダヴィッド・ワルター氏 インタビュー

ダヴィッド・ワルター

世界各地でマスタークラスを開催し、演奏家・教育者として国際的に活躍を続けているダヴィッド・ワルター氏に、マリゴとの出会いやリードなどについてお話をうかがいました。

オーボエを選んだのはアクシデント!

音楽を始めたのはどんなきっかけですか?

3歳の頃からクラシックのレコードしか好きではありませんでした。
でもお母さんは僕がお腹の中にいる時からたくさん歌ってくれていたそうなので、多分お腹の中ですでに耳は育っていたはず(笑)
だから最初から音楽は僕にとって唯一の選択肢だったんだと思います。

でも、オーボエを吹くようになったのは“アクシデント=予想外”だったんです。

ダヴィッド・ワルター

アクシデント!? 何があったんですか?

本当はヴァイオリンをやりたかったんですが、引っ越したリヨンの街の音楽教室(Ecole de Musique)には空きがなく…
お父さんがオーボエとトロンボーンを並べて「どっちにする?」と。
トロンボーンはちょっと音が大きすぎるから(笑)仕方なくオーボエを選んだ!というわけです。
2年間ソルフェージュを勉強してから、8歳の時のことです。

12〜13歳の頃にはもう音楽の道に進むことを考え始めていて、実際17歳でパリ国立高等音楽院(Conservatoire National Superieur de la Musique et Dance de Paris、以下CNSM)に入学しました。

とても自然に、音楽の道にたどり着かれたんですね。

実はその時まだ高校を卒業していなかったんです。
今はCNSMに入学しても高校の学業を同時進行できるシステムが整っていますが、僕の時代はそういうわけでもなく。
もう進路の決まっている僕は、高校の授業時間はもう音楽のことで頭がいっぱい!
周りが必死に大学入試の勉強をする中、音楽のことを考えてとっても楽しく過ごしていました(笑)

レッスンを聴講して“考え”尽くした学生時代

CNSMではどんな学生生活でしたか?

あの時代は現代のような教育方法ではなかったので、今のように“先生が生徒に教える”というやり方ではありませんでした。

レッスンではジレの上級エチュードなど難しいエチュードと音階のテクニック練習に特化して、いわゆるオーボエのレパートリー作品にはほとんど取り組んだことがありませんでした。
演奏スタイルやフレーズといった類の指導はほとんど聞いたことがないくらいに。
レッスンで吹いて見せると「OK、じゃあ次!」とどんどん進む。

ダヴィッド・ワルター

今とはだいぶ違っているんですね。

先生たちはあまり“積極的に教える”というやり方ではありませんでした。
生徒は先生の型や音楽表現を盗むように学ぶ。
僕はピエール・ピエルロ先生に習いましたが、その当時のフランスの先生たちはそうやってレッスンをするのが普通のやり方でした。

なので僕は全員分のレッスンを見学して「何が良いのか」「何で良いのか」「何でできるのか」「何でできないのか」を自分で考えながら過ごしました。
そうして学んだことがたくさんあります。

モーリス・ブルグ先生には室内楽を学んでいましたが、卒業の1ヶ月前に初めてオーボエのレッスンを受けました。
その時初めて、物事を説明してくれる人に出会ったんです。
それまでそのような先生の元で学んでこなかった僕にとっては、真新しいこととの出会いで大きな衝撃でした。

19歳でパリ音楽院を卒業されたんですよね。

そう、19歳でオーボエ専攻を卒業して、21歳で室内楽を修了して、その後29歳で教鞭を取るようになりました。

卒業後の10年ほどはどんな活動をされていたんですか?

ジュネーブやプラハの春をはじめ、5つの国際コンクールで合計6回賞を獲得することができました。

そして他の音楽院(Conservatoire)でも教え始めていましたが、29歳の時に母校であるCNSMに戻ったという形ですね。

ダヴィッド・ワルター

実は大嫌いだった木管五重奏

モラゲス・クインテットとしての活動もその頃からですか?

もう46年も活動しているので、22歳の頃からの話になりますね。

でも実は、僕はもともと木管五重奏が大嫌いで…

えぇぇぇぇ!?!?!?

最初はクラリネットのパスカルが声をかけてきましたが、返事は「やらない」一択。
お次はフルートのミシェル、それにも「嫌いだから嫌」と答えました。
でも最後はモラゲス兄弟が3人揃って「お試しだけで良いから…」とお願いに来たんです(笑)
仕方がないから一緒に音を出してみると、「なんだこれは!?」と…

改めて「木管五重奏やる?」と聞かれたので「Oui!!!!!」と答えました(笑)

オーボエを始めた頃に学生同士で木管五重奏をやったことはありましたがあまり良い印象が残っておらず…
でもモラゲス三兄弟と一緒に音を出してみると兄弟同士の通じ合った音が聞こえて来て、最高なんですよね。

それが22歳の頃、それ以来僕の人生の中心は室内楽での活動です。

ダヴィッド・ワルター

室内楽のどんなところが魅力だと感じていますか?

ソリストとしての活動は機会が限られますしレパートリーも多くない、そして孤独なんです。
会場に来て、演奏して、帰る…本当の意味での“共有”というものが少ないんです。

もちろんオーケストラでの演奏も好きですが、仕事をこなす上で奏者自身が音楽に深く踏み込むことはあまりないし、何を演奏するかは選べないですよね。

でも室内楽だと何を演奏してどんな音楽を作るか自由に選択できて、主体的に活動ができます。
自分で編曲や作曲をすることもできて、表現の場であると同時に創造の場でもあり、自分自身のアーティスト性を高められる特別な場所です。

そして編曲作品を作ることは自分たちにとっても有益ですが、世界中の多くの音楽家のためにもなっていると感じています。

ダヴィッド・ワルター

生徒それぞれのやり方を探す“手伝い”をする

教授としてCNSMに戻られてからのお話も聞かせてください。

CNSMでは最初からオーボエと室内楽両方のレッスンを担当し、昨年まで38年間教鞭を取りました。

CNSMには2つの特徴があると思っています。
1つはオーボエ製作の中心地ともいえるフランスという国にあり、オーボエの歴史を語るうえで外すことのできない音楽院だということ。
もう1つは数あるフランスの音楽院の中でも高等音楽院(Conservatoire Superieur)というのはパリとリヨンの2つしかないということです。
フランスはもとより世界中から生徒が集まってくる中で、この2つの音楽院は自動的にとても高いレベルになりますし、同時に高いレベルでないといけないのです。

高いレベルの生徒が集まる中でどのようなレッスンをされていたんですか?

基礎的な技術には既に大きな問題がない生徒が多いですが、例えば体の使い方や楽器のセッティングなど、それぞれの生徒にとって必要なことを選んで取り組みます。

音楽家にとって“成功する”というのは、様々な“バランスが取れる”ようになることだと思います。
例えば仕事と自分のやりたいことのバランスだったり、身体と思考のバランスだったり。

CNSMの場合を考えると感情的な方面にバランスが偏る場合があります。
感情的になりすぎて怒りや苛立ちが強くなりすぎると自信を失ってしまいます。
その場合にはそこに働きかけないといけません。

ダヴィッド・ワルター

きっとそれは、先生の門下から素晴らしい奏者がたくさん出続けている秘訣ですね。

僕の考えでは教え方には大きく2つの方法があると思っています。

1つは僕が学生の頃のように師匠と弟子という関係で、弟子は師匠に属する存在という考え方。
もう1つは教師も兄や姉のように生徒と並列に並び、生徒自身の表現や個性を見つけようとするやり方。

僕は後者を好んでいます。
だから生徒の演奏を聞いた人からは「先生と同じ演奏をする人はいないね」と言われます。

ひとりひとりの個性を大切にされているんですね。

今回日本で教える際にも尋ねると思いますが、いつもまず最初に生徒に投げかけるのは「今吹いてみてどう思った?何を感じた?」ということです。
これは僕が学生の時代にはあまりなかったことです。

教える立場として「どうやるべきか」を伝えるよりも、音楽家やアーティストとして自分自身で考え感じて、その人自身の表現をどのように発見していくかを一緒に探す助けをしたいと思っています。

例えば日本を筆頭に、“他者を尊敬し敬う”という素晴らしい文化を持つ国がありますが、それは時として自由な表現を妨げることもある気がします。

ダヴィッド・ワルター

確かに、日本では師弟関係が大切にされますね。

そのような場合は、まず生徒との関係性をフラットにすることを心がけ、近づいて来てもらえるようにしています。

各国の文化や習慣を知っておくことで、どうやってその人を助けるかのヒントになることもありますね。
でも本来このような話はパスポートによって考えられるようなものではありません。

その人それぞれに難点も違えば視点も違う、誰しもが唯一無二の人格を持っていますよね。
教育で面白いのは、自分自身を表現したいと思っている人をどんな切り口で助けられるかということを見極めることです。

日本人かオーストラリア人かチリ人か…そんなところに興味はなくて、僕はいつでも“その人は一人の人間でありその人自身である”と考えています。

4種のリードを準備する

お使いのリードを見せていただけますか?

チューブはキアルジの2番を使っています。
でも他の奏者と交換したり試したりもするので、リードケースの中にはいろんなチューブが混ざっています(笑)

材料の厚さは薄めの0.55-0.56mm、型はシャンタンの12番。
チューブが47mmなら全長は72mm、46mmなら71mmと結構オーソドックスな設定だと思います。

この型やチューブの組み合わせはM2との相性も良く、バランスが取れていると感じています。

ダヴィッド・ワルター

4種類の色のリードがありますが、これは何の違いですか?

材料の柔らかさを4段階に分けて作っています。
右が1番柔らかく、左に行くと硬くなって4段階、普段は真ん中の2つのカテゴリーを吹いています。

それはどんな目的で?

たとえ同じフランスの中だとしても、パリから南の方へ移動すればリードの状態は全く変わってしまう…
寒い場所では硬くなるので柔らかい材料のリードを使いますし、例えば日本に来ると暑くて湿度が高いので少し硬めの材料のリードにするかな?という予想ができる。
それぞれの環境に適応できるように準備しています。

オーボエ奏者の安全策といった感じですね!

今日の会場は音響の良い広い会場なのか狭いレッスン室なのか分からない、ホテルのエアコンが効いている場所ならばっちりだったのに会場に行くと全く違った!なんてこともありますよね。
でも、どんな場所でも吹かないといけないですから(笑)

環境が変わっても結果的に同じ感覚で演奏できるように、4種類の可能性を準備して備えています。

ダヴィッド・ワルター

奏者と共に進化するマリゴ

楽器のお話も聞かせてください。マリゴを吹き始めたのはいつ頃ですか?

最初にマリゴを吹き始めたのは1983年、もう40年以上前になります。
国際コンクールを受けていた頃、音量は大きいはずなのに遠くに届かないという悩みを持っていて、出会ったのがマリゴです。

もう何本楽器を買ったかは分かりませんが、たぶん50本くらい(笑)
遠くに住んでいる生徒に譲ることもあったりして、年に1〜2本のペースですね。

901も2001も吹いてきましたが、最近はM2を吹いていることが多いです。
実はこのM2も2週間前に買ったばかりの新品です(笑)

ダヴィッド・ワルター

M2のどんなところを気に入っているんですか?

例えば901とM2は内径も違えばバランスも違う、でもどちらもマリゴらしさを持っています。

比較するなら、901の方はすでに楽器自身が持つ音色が出来上がっているような気がします。
M2の方が中庸で音色も均一なので、奏者自身のやりたいことが見えやすい印象です。

でも本来音色というのはその人それぞれが持っているもので、全て楽器が作ってくれるわけではありません。
だから僕とは違って901を好む奏者もたくさんいますし、これは好みであり、とても個人的な感覚程度の話と思ってくださいね。

長年使ってこられて、マリゴの良さはどんなところにあると思いますか?

特に発音に特徴があって、優しく柔らかい表現が得意です。
もっと言うなら、低音をpで発音するのも難しくない楽器ですね。
室内楽で演奏する際にもとても役立ちます。

一般的にこの40年でより丸い音色が好まれるようになってきましたが、それもマリゴの広まりによる影響かもしれませんね。

ダヴィッド・ワルター

マリゴ社の皆さんともよく会われますか?

ルノー社長をはじめマリゴの皆さんは、奏者の話を丁寧に聞いてくれます。
それがマリゴの楽器の良さにつながっていると思います。

技術部の中心的役割を担っているジェレミー・マチューさんとは、彼がマリゴに来て以来ずっと一緒に仕事をしています。
マリゴを使い始めた1983年以降、僕は常に進化し続けているマリゴの姿を見続けていますよ。

マリゴのオーボエ・ダモーレの到達地点

今回お持ちになっているオーボエ・ダモーレのこともお聞かせください!

それならオーボエ・ダモーレだけのCDを作った話をしないといけないですね。

レパートリーが限られる楽器ですが、楽器の改良と共にオーボエ・ダモーレの音楽も開発しています。
今回のCDも全て自分でアレンジした曲を録音しました。

le hautbois d'amour nouveaux horizons
le hautbois d'amour
nouveaux horizons

オーボエ・ダモーレはどんな楽器ですか?

シンプルに言うなら“大きいオーボエ”!(笑)
イングリッシュホルンは“もっと大きいオーボエ”だし、バソンだって“すごく大きいオーボエ”であり、みんな1つの家族ですね。

技術的には響きを調整するためのトーンホールの追加など小さな違いはありますが、基本的にはオーボエとほとんど同じです。
キィの設計を工夫することで、ほぼオーボエと同じ手の感覚で吹けるようになっています。

あえて挙げるなら、オーボエとオーボエ・ダモーレの違いは何だと思われますか?

2つの楽器は同じシステムで、大きさも100mm位の違いしかないのに、いつも何もかもが違う。
何でかと聞かれると、僕たちも分からない…

オーボエ・ダモーレの何が好きかと聞かれれば、”あたたかい音色”でしょうか。
きっとその秘密はベルの形でしょうね。

マリゴのオーボエ・ダモーレには、長らく開発に参加されているんですよね。

もう10年ほど関わっています。
当初から良い音色を持っていたのでそれはそのままに、音程の均一性を追求し、もっと楽に自由に吹けるように手を加えて、ボーカルやベルの内径なども変えています。

今回僕がオーボエ・ダモーレだけで1枚のCDを作って持って来られたことが、良い楽器に進化している証です!

ダヴィッド・ワルター

David Walter

1958年パリ生まれ。パリ国立高等音楽院にてオーボエ科と室内楽科の一等賞を得て卒業後、アンコーナ、プラハ、ミュンヘン、ベオグラード、ジュネーヴの5つの国際コンクールにおいて入賞し、世界的な評価を確立した。室内楽の分野では1980年に結成されたモラゲス木管五重奏団の創設メンバーとしての活動で広く知られている。また教育者としても高い評価を受け、29歳という異例の若さでパリ国立高等音楽院のオーボエおよび室内楽教授に就任し、同音楽院史上最年少教授となった。
1987年から2025年まで同音楽院で後進の指導にあたり、1997年から2009年にはロンドンのギルドホール音楽演劇学校でも教鞭を執る。現在も世界各地でマスタークラスを開催し、演奏家・教育者として国際的に活躍を続けている。
【使用楽器:Marigaux Oboe M2/Marigaux Oboe d´amore 903】