ジェローム・ヴォワザン氏 来日インタビュー

ジェローム・ヴォワザン

フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団首席クラリネット奏者、ブローニュ=ビヤンクール地方音楽院 ジェローム・ヴォワザン氏。使用楽器についてインタビューを行いました。

「最高の先生は自分自身」

ヴォワザンさんはどのようにクラリネットを始め、どのように勉強してきたのでしょうか。

始めたのは9歳のときです。最初は小さな音楽教室に通い、純粋に楽しみのために吹いていました。しかしあるとき参加したサマーキャンプで会った講師の人たちから、「君は音楽院(コンセルヴァトワール)に行くべきだ」と言われたのです。

それで13歳でトゥール地方音楽院に入学し、本格的にクラリネットを勉強し始めました。17歳でリヨン国立高等音楽院に進み、1993年に21歳で卒業したときには、すでにいくつかのオーケストラにエキストラとして呼ばれ、小さな音楽学校で子どもに教えることもしていました。しかしちょうどその頃、パスカル・モラゲスが新たにパリ国立高等音楽院の先生になり、ぜひ彼に習いたかったのでパリ国立高等音楽院に入って、博士課程を取ることにしました。

それまで何人もの先生に習っていたわけですが、それぞれ印象に残っていることはありますか。

まずトゥール地方音楽院での私の最初の先生はパスカル・キャラティですが、その教えはシンプルに「楽しんで演奏すること」でした。2番目の先生となったディディエ・ディレットルはさらに良い音を探すため、アンブシュアや息の使い方に重きを置きました。彼の音自体が唯一無二の素晴らしいものであったので、私の頭の中に響く良い音は、今も先生の音が基準になっています。

リヨン国立高等音楽院で習ったジャック・ディ・ドナート先生は、「プロの音楽家としてどうあるべきか」を教えてくれました。ステージの上で聴衆に向かってどんな提案ができるかが重要で、そのためには、まず自分自身のパーソナリティを高める必要があるということでした。

パリ国立高等音楽院で学んだパスカル・モラゲス先生は「指導者」ではなく、1人の音楽家として私に接してくれました。そして「あなた自身であれ(自分に自信を持て)」と言って背中を押してくれました。

私が演奏するときには、単に先生がたの教えに従うわけでなく、そこには必ず自分自身の経験が加わっています。生きているすべての経験が演奏に生きてくるわけですから、「最高の先生は自分自身」と言ってもいいでしょうね。

※元リヨン国立高等音楽院教授、シグネチャーの開発に携わっているアーティスト。

ヴォワザンさんも現在パリ・ブローニュ=ビヤンクール地方音楽院で教えていますが、どのようなことを重視していますか。

一番大切なことは、自分が何をしたいのか、自分自身で見つけることです。それには耳を「教育」しなければなりません。誰かの演奏を聴いたときに、「どうして自分はこの演奏が好きなのだろう」とか「なぜ理解できないんだろう」などと考えることです。さらには、「演奏するときに自分の身体がどうなっているのか」「自分の音楽はどうなっているか」「この音楽はどう構成されているのか」などと考えることが、すべて自らの感性を向上させることにつながるのです。

Museを初めて試奏したときにとても幸せな気分になった

楽器についてうかがいたいのですが、ヴォワザンさんにとって「良い楽器」とはどんなものだと考えますか。

まず、奏者が音色を変えることのできる楽器ですね。たとえ良い音色を持つ楽器であっても、私が音色を変えられないものは選びません。私は「楽器の言いなり」にはなりたくないのです。

そんなヴォワザンさんが現在愛用しているのがMuseですが……。

2022年から使っています。その前に使っていた楽器に不満があったわけではないのですが、何か新しいものを見つけたいと思い、違う方向性のものを探していたときに、ちょうどこの楽器に出会いました。

当時Museはまったく新しいモデルでしたから、まず誰が開発したのかを尋ねました。すると、以前からよく知っていて、私が尊敬する人たちが携わっていることがわかりました。彼らはこれまでとは違う演奏へのアプローチを模索し、これまでと違う楽器を作ろうとしたそうです。それを聞いて、「このチームが作りあげた楽器なら信用できる」と思い、吹いてみることにしたのです。だから、初めて試奏したときにとても幸せな気分になったことには驚きませんでした。私がミューズを使うのは自然な流れだったのです。

もちろん吹きこなすには多少の時間を必要としましたが、Museで演奏すると私のやりたいことが楽にできるとわかりました。力づくで吹こうとするとよい音は出ませんが、ある程度楽器に任せるととてもよく響いてくれますし、音を遠くに飛ばすこともできるのです。

ある意味「楽に吹ける楽器」と言ってよいのでしょうか。

確かに労力は少ないですが、奏者の口の方で繊細に音色を作る必要があります。Museはそれに敏感に反応してくれるのです。「鳴らす」よりも「響かせる」ように吹く楽器なのです。クラリネットはあるレジスターがどうしても弱く、奏者側で何とかする必要がありますが、Museの場合は全音域での音の均一性が高いので、その苦労は少なくなります。

オーケストラで吹いたときにはどのような印象ですか。

オーケストラではそれほど大きな音が出せる必要はありませんが、ときには弦楽器の上を飛び越えて客席に届かせる必要があります。まさにMuseはそれができる楽器なのです。

とにかくエンジョイしてプレイしてほしい

さきほど、「良い楽器」の条件として「奏者が音色を変えることのできる楽器」とおっしゃいましたが、Museに関しては?

私は、オーケストラで吹くとき、室内楽やソロで吹くとき、またはクラシック以外の音楽を演奏するとき、すべてMuseで演奏しています。これ1本でいろいろな方向に行くことができるからです。

また、吹く人の音を出してくれる楽器でもあります。私にとってはこの楽器がもっとも合っていますが、全ての人にお薦めするわけではありません。その人に合う楽器を探すことが大事だと思います。

私がセルマー・パリのブランドとしての哲学を気に入っているのは、モデル数は少ないけれど、各モデルが様々なニーズや好み、様々な音楽に対応できるようになっているところなのです。

セッティングについて教えてください。

マウスピースは、クックメイヤーのヴェルディ・トラヴィアータというモデルを使っています。クックメイヤーはオーストリアのハンドメイドのマウスピースです。リードは長年バンドーレンV.12の3½+を使い続けています。

ずいぶん硬めのリードをお使いなのですね。

よく言われます(笑)。でも私にはこれが一番合っています。息を止めた後も少し残響が残る感じが好きです。どの楽器を使っているときでも、リードは変えていません。自分の音がもうこのリードで出来上がっているのです。

ちなみにマウスピースも、以前はバンドーレンのB40ライヤーの13シリーズを使っていました。このモデルは鳴りのいいところが気に入っています。首席になる前は、M13ライヤーを使っていました。これもよく「珍しい」と言われました(笑)。

在籍30年になるが、吹いていて飽きないオーケストラ

現在首席を務めるフランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団(以下、フランス放送フィル)には、もう長いこといらっしゃるのですね。

オーディションに合格して入団したのは1996年のことでした。最初は2ndクラリネット&バスクラリネットというポジションでした。そして2006年に首席が退団した際にオーディションを受けて首席になりました。合計するともう30年になりますね。今年10月に記念パーティーを開く予定です。

ヴォワザンさんから見て、フランス放送フィルはどのようなオーケストラですか。

オーケストラに比べて編成が大きく、約70名の団員がいますので、小さい編成の曲から20世紀の巨大な編成の作品まで演奏することができます。基本的にシーズン中に同じ曲を演奏することはありません。例えばオペラは同じ演目を何十回と演奏します。だからこそ良い点もあるのですが、繰り返し演奏することはストレスにもなります。そういう意味でも、われわれのオーケストラは吹いていて飽きることがないですね。

オーケストラ以外でも、ユニークな活動をされていると聞きます。

例えば2010年に立ち上げたアンサンブル「パサレラ(Pasarela)」が挙げられます。すでに活動を終えていますが、私の音楽人生の重要な一部分です。アコーディオン、ピアノ、ヴァイオリン、クラリネットという編成であり、自分たちでアレンジした曲を演奏していました。特に南米の音楽を多く取り上げていましたが、東欧の音楽もレパートリーに入っていました。ヒナステラ、ヴィラ=ロボス、コダーイ、バルトークなどの曲もオリジナルアレンジで演奏していましたね。

別の機会には「イム・オー・ソレイユ(Hymne au Soleil)」という、クラシックの演奏家を含むジャズのプロジェクトに参加したこともあります。これは、リリ・ブーランジェ、デュリュフレ、ラヴェル、フォーレなど20世紀のフランスの作曲家にインスパイアされた作品をジャズのスタイルで演奏するというものでした。最初は「うまくいくのだろうか?」と思っていましたが、大成功を収めました。CDも発売されていますので聴いてみてください。

最後に、セルマーのファンに向けてメッセージをお願いします。

世界中の有名プレイヤーがセルマーの楽器を使っていますので、積極的にその音に触れてみてください。そして誰がどのモデルを使っているのかを知り、1人1人がどれだけ音が違うか、どんなスタイルを構築しているのかを聴いてほしいと思います。そして、とにかくエンジョイしてプレイしてほしいですね!

ジェローム・ヴォワザン氏メッセージ

Jerome Voisin

フランス・リモージュ生まれ。9歳でクラリネットを始める。トゥール地方音楽院でディディエ・ドゥレットに師事した後、リヨン国立高等音楽院(ジャック・ディ・ドナートのクラス)を卒業。さらにパリ国立高等音楽院の上級課程でパスカル・モラゲスのもと研鑽を積む。

1996年から2006年までフランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団のバスクラリネット奏者、2006年より同オーケストラの首席クラリネット奏者を務める。

クラウディオ・アバド、ダニエル・ハーディング、トゥガン・ソヒエフ、ヤニック・ネゼ=セガン、セミョン・ビシュコフらの指揮のもと、マーラー・チェンバー・オーケストラやヨーロッパ室内管弦楽団などと共演をしている。ローマ、プラハ、トゥーロンの国際コンクールで優勝。室内楽奏者としても高い評価を受けており、レジス・パスキエ、ローラン・ピドゥー、クリストフ・コワン、フランソワ・ルルー、ローラン・ルフェーヴル、マガリ・モスニエ、エマニュエル・ストロッセール、ロマン・ギュイヨ、オルタンス・カルティエ=ブレッソン、ピエール=アラン・ヴォロンダらと共演。

2006年には、ロマン・ギュイヨ、パスカル・ロフェとともに、マルク=アンドレ・ダルバヴィ作曲《アンティフォニー》(クラリネット、バセットホルンと空間配置オーケストラのための二重協奏曲)を録音し、Densité21レーベルより発売。2015年には、ミレ・アンサンブルのメンバーとして、ユン・イサンの《八重奏曲》《木管五重奏曲第2番》《三重奏曲》をHérissonレーベルにて録音。2010年には、モード・ロヴェット(ヴァイオリン)、ブルーノ・モーリス(アコーディオン)、フレデリック・ラガルド(ピアノ)とともにパサレラ・アンサンブルを結成。ヴァイオリン、アコーディオン、クラリネット、ピアノという編成で、東ヨーロッパから南アメリカまで幅広い地域の音楽をレパートリーとしている。

長年にわたりグループ「Sorties d'Artistes」のメンバーとして活動し、『En Espagne』や、アンドレ・メサジェの作品をもとにした『Véronique et les autres』を録音している。現代音楽の熱心な擁護者としても知られ、アンサンブルTM+、そして2018年からはATMusicaとも継続的に共演している。さらに、ジャズ界でもステファン・ベルモンド、リオネル・ベルモンド兄弟と共演し、『Hymne au soleil』『Influence』(ユセフ・ラティーフ参加)、『Belmondo and Milton Nascimento』『Hymne au soleil 2』などのアルバムに参加。加えて、「Jazz à Vienne」や「Banlieues Bleues」などのジャズ・フェスティバルにも出演。

クラリネット教育資格(C.A.:Certificat d'Aptitude)の保持者でもあり、現在はパリ=ブローニュ=ビヤンクール高等教育機関(Pôle Supérieur Paris-Boulogne-Billancourt)でクラリネットと室内楽を指導。さらに、フランス国内のみならず、アルゼンチン、ブラジル、日本、ルーマニア、スロベニアなど世界各地で定期的にマスタークラスを行っている。

【使用楽器】SELMER Paris A/B CLARINET “Muse”