インタビュー
INTERVIEW
インゴ・ゴリツキ(オーボエ奏者、シュトゥットガルト音楽大学教授)ד愛機誕生秘話”
―今から30年ぐらい前は、ドイツのオーボエ奏者はリングキーのドイツ製の楽器を使っていましたが、その後はフランス製のインターナショナルな楽器を使うようになった。ゴリツキさんが始めたころはどういう状況だったのですか?
ゴリツキ:今から38年ぐらい前のことですが、最初の楽器はピュヒナーのオーボエでした。私は20才のときにフルートからオーボエに転向したんですけど、私が選んだのではなく、レッスンのときに偶然目の前にあったんです。 その当時、ヴィンシャーマンのクラスの若い学生にはもうフランス製の楽器を使っている人もいました。
―ゴリツキさんがフランス製の楽器を使うようになったのは?
ゴリツキ:学生時代の友人だったギュンター・パッシンと一緒にパリに遊びに行ったんです。免許を取得した翌日にフォルクスワーゲンに乗って(笑)。走り始めてすぐに故障してしまったけど、偶然止まった場所がワーゲンの修理工場だったんです(笑)。
この旅行でリグータのオーボエを買ってきました。でも、これもそんなに長期間吹いたわけではありません。バーゼルのオーケストラに入団して、オケのなかで吹いたら充分ではなかった。それでマリゴに換えてずっと使っていました。当時からマリゴは世界でトップクラスのオーボエでしたからね。
―フランス製の楽器を使うことに対して抵抗はなかった?
ゴリツキ:オーボエという楽器がシステムとして発展したのはパリを中心としたフランスなので、まったく抵抗はありませんでした。もちろん、求めている音の響きはドイツとフランスでは違いますが、今はフランス人の音がドイツの音に近付いてきたので、昔ほど差はありません。
―現在はフランクさんが作ったLFのオーボエをお使いですが、よりドイツ的な音を求めたんですか?
ゴリツキ:この楽器は別にフランスの楽器の対極にあるというわけではありません。この楽器を試したら非常に良かったから使っているだけです。自分が表現したいものを具現化するのにもっとも適していると判断しただけ。
―ゴリツキさんがお使いの楽器はベルの形状がユニークですよね?
ゴリツキ:見た目にも美しいでしょう? 楽器というのは、いろいろな人の意見を採り入れて常に発展していくものです。その結果としてこういう形になったのでしょう。
― 一方、このメーニッヒ社製のオーボエダモーレのベルもユニークですね。普通は球根型をしているけど、クラリネットのようにベルが広がっていて。
ゴリツキ:これはもう天才的なひらめきと言っていいアイデアです。これまでのオーボエダモーレは、バロック時代から基本は何も変化していなくて、ただメカニズムが付いただけのものでしたが、この楽器は構造を根本的に見直してできあがった。試してみて本当にびっくりしました。オーボエのアルト音域を豊かに響かすことができて、しかもバロック時代の良い楽器を吹いたときと同じ感覚で演奏することができる。
―この楽器はどういうきっかけで生まれたんですか?
ゴリツキ:あるとき、ベルリンフィル首席オーボエ奏者のアルブレヒト・マイヤーのオーボエダモーレが紛失してしまい、世界中のメーカーのを試したけどどれも気に入らなかったということで、私のところに来たんです。どうせ作るならこれまでなかったオーボエダモーレを作りたいということで、1から開発を始めたんです。彼は毎日のように私たちの工房に来て、ボアを少しずつ広げながらテストしました。そうしたらあるとき全く音が出なくなったんです。そうしたらマイヤー氏は「これで限界が分かった」って(笑)。 結局、通常のオーボエダモーレよりもかなり広いボアになり、上管はイングリッシュホルンに近く、下管のオーボエのベルに近いボアになりました。それに合うベルを探していたところ、試奏している部屋にたまたまドイツクラリネットのベルが置いてあって、マイヤー氏が試しにそれを装着して吹いてみたらいちばん良い音がしたということで、現在のベルの形のヒントになったんです。
―ゴリツキさんはイングリッシュホルンもメーニッヒを使っているんですか?
ゴリツキ:オーボエはLF、オーボエダモーレとイングリッシュホルンはメーニッヒ、すべてフランクさんが開発した楽器です。最初に使い始めたのはイングリッシュホルンなんですよ。
―日本のオーボエ奏者にメッセージをお願いします。
ゴリツキ:日本に来て才能ある生徒たちに会えるのが楽しみです。ただ、そのなかでいつも問題になるのは、それまでの教育の中で基礎がきちんとできていないこと。私の教え子であるマイヤーにしても、なぜ彼らの才能が開花したのかというと、きちんとした基礎を土台として持っているからなんです。その基礎の教育がきちんとなされていないのは残念です。日本の生徒は、基礎的なことができていないのに、大きな芸術表現をしようとし過ぎている。それである程度はできるようになるかもしれないけど、そこから先に進むのは難しいんです。なのでまず基礎を身につけるようにしてください。