サクソフォン奏者 坂口大介
大人の留学記

クローバー・サクソフォン・クヮルテット 
バリトンサクソフォン奏者
坂口大介のオランダ留学記【vol.11】
- SPECIAL FEATURE BY NONAKA BOEKI -

コロナ禍でのオランダ留学

October 15, 2021

こんにちは、帰国して1ヶ月ほど経ちました。
日本の夏を十分感じましたが、やはり蒸し暑いですね!
この夏は、雨もよく降り、そしてコロナの波も...なかなか日本にとって大変な時期ですね。

さて、こちらで書かせていただいている留学日記も残すところあと二回。
今回は記録という意味でオランダでのコロナの状況を書かせて頂きます。
あくまで僕の感覚、感じた事として捉えて頂ければと。
振り返ると大部分がロックダウンだったわけですが、あまりしんどい気持ちにならなかったのは、やはり楽観的なオランダの空気によるものだったのかな~と思っています。

<最初にまず参考としてオランダの規模を簡単にまとめ>

・オランダは人口1,800万人(日本の約5分の1)
・面積4万1,528平方キロメートル(日本の約9分の1)

だいぶ小さい国で、北海道の半分以下の広さ!
都市で言うと首都であるアムステルダムは人口82万人、人口密度 3,506人/km²。
僕の住んでいたハーグは人口48万人、人口密度 5,794人/km²。
東京は23区で人口960万人、人口密度15,375人/km²。
いかに東京が大都市であるかわかりますね!

<一般的なコロナ禍でのルール>

◯マスク
マスクに対する意識が一番日本と異なる部分でしょう。
オランダでは外でほとんどの人がマスクをしておらず、最初は日本とのギャップに驚きました。
それは僕がオランダにいる間ずっと続き、結局屋外でのマスク着用義務は1度もなされませんでした。
その為、外に出た時にコロナを感じることはほとんどなく、昔と変わらない生活です。
代わりに、指定された屋内では徹底してマスクの着用が義務付けられており、違反すると1万円以上の罰金が科せられます。
12歳以下にはマスクの着用義務はありません。
これはマスクをする方が子供の成長によくないという考え、そして低年齢においてはコロナ感染のリスクが少ない(当時)という考えによるのでしょう。
このような、ある意味合理的な考えがオランダのやり方の特徴かもしれません。
一方で、公共交通機関や学校でのマスク義務はずっと厳しく設定されていました。
小売店でのマスク着用はコロナの波によって規制されたりされなかったりですが、ロックダウンの後半などでは段々となぁなぁになっていた印象がありました。

◯1.5メートル ルール
多くの場所で1.5メートルの目印が地面に貼られていました。特にレジの前などはほぼ必ずあったと思います。

◯お店での入場人数制限
時期によってルールは頻繁に変わり、お店の大きさによって入場可能な人数がお店の入り口に明示されます。
小さなお店だと3、4人くらい、大きなお店では予約制にして収容人数を管理していました。

◯現場仕事以外は極力在宅仕事
かなり厳しく政府から要請されていたようで、オフィスワークはほとんど自宅でという方針が敷かれていました。
日本よりIT化ははるかに進んでいて、ほぼ全ての仕事が在宅勤務で行われていました。

◯訪問人数制限
人を招く時の人数は、コロナの状況によって1人から3人と細かく規定されました。

ルールは明確に示され、それを破ると罰金などが課せられるというのがオランダの方針。
逆に、ルールに反しない限り、ほとんどの国民はとことん自由に生活していました。
ある程度はリスクを気にするのではなく、とりあえずルールを決める。
もしそれがうまくいかなかった場合はすぐにルールを変更していくというのも特徴で、2週間おきにルールが変わることもあります。
柔軟性がある一方、よく政府のホームページをチェックする必要があります。

オランダにはとても多くの人種、国籍の人々が住んでいます。
価値観も、倫理観もまちまち、、。
そしてオランダ語を読めない人も結構いる。そこで大事な事が、わかりやすいルールなんですね。
例えば、訪問のルール。
誰かの家に行くときは何人までとか、外では何人まで集まれるとかが明確に示されます。
市民の倫理観に委ねない、言わば性悪説に基づいたルールが作られるわけです。
また、ルールの徹底のため、破った時には必ず罰金など何らかのペナルティーを設けられています。
そのコントロールのために街には警察官がたくさんいて、最初のうちはちょっと怖かったです。

オランダの警察官はマッチョです

◯学校
個人レッスンは対面で、他は基本オンラインで実施されました。
各練習室に最大の収容人数が明記され、その人数以内なら室内楽もできます。
オーケストラの授業も距離をとって行われました。
この辺りは政府のルールに基づいて実施され、政府のルールも結構変わるのでその都度、最大限できる範囲で活動していた印象があります。
合唱はやはり難しく、パートで別れて5人くらいでやるのが精一杯。
オーケストラの演奏会は無観客ながら何回か行われました。

合唱のクラス、パーテーションを使い5人を限度で行われました

◎というわけで、去年からのオランダでのコロナの様子を時系列でまとめてみました。

□初めてオランダについた2020年9月

この頃はヨーロッパではコロナの感染の波が落ち着いている時期でした。
規制はそれほどなく主なルールとしては、

・公共機関でのマスク着用義務
・1.5メートル ルール
・小さなお店での入場人数制限(小さなお店だと3、4人くらい)
・在宅勤務の要請

イベントは人数制限の中で、コンサートについては30人以内の観客で行われていて、僕も一回、教会で行われるコンサートに行くことができました。

オランダ南部、ブレダの教会でのコンサート

この時はイベントの開催は政府の方から奨励されていて、もしコロナの状況でイベントがキャンセルになった時も政府の方からコストに対し、ほぼ100%の補償がなされるようになっていました。
音楽家にとってはイベントを企画するリスクがないようになっており、政府は制限の中で積極的に公演等をするのを推奨していました。
この時は来たばかりの海外生活に慣れるのに必死で、あまりコロナに関する情報を気にする余裕もなかったのですが、街には普通に人が溢れ、お店も普通に営業していたので生活に不自由を感じることはありませんでした。
日本に比べるとゆるゆるだな~というのは強く感じました🙃

オランダ、夜の繁華街

□2020年10月~11月

10月中頃になると、コロナの第二波がやってきました。
ここで規制がぐっと厳しくなることになります。
この時の新規感染者が1万人くらい。ハーグでも身近なところでコロナにかかった人の話を聞くようになりました。
この時からレストランなど飲食店が営業中止になりテイクアウトのみの営業になります。
開いているお店はスーパーマーケットなどの食料品店になりました。
アルコールの販売も夜8時までに。

2020年11月のコロナ禍でのルール
https://www.nl.emb-japan.go.jp/files/100111425.pdf より

もともと外食はほとんどしていなかったので、それに困ることはなかったのですが、街の様子にウーバーの自転車が目立つようになりました。
オランダは自転車社会。
ウーバーが広がりやすい土壌がもともとあり、また、ヨーロッパでは早い時期(2020年の春)に大きなロックダウンを実施していたので、どのレストランもしっかりテイクアウトのメニューを作っていたという印象があります。
ラーメンでもなんでも密閉容器に詰め込んで持ち帰ることができました。

この時期の面白い事件として、海外旅行をしないように勧告されていたにかかわらず、オランダの王様がギリシャにヴァカンスに行こうとして、非難されるということが。
どの国でもスキャンダルは叩かれますね😉

□2020年12月~2021年3月 ロックダウンの始まり

その後、一時的に波がおさまったものの、年末にかけもう一度感染者が増加し、その後は夜間の外出禁止が施行されました。 これは夜9時以降、外にいてはいけないというもので、夜になるとめっきり街から人がいなくなりました。
8時位から繁華街には警察がパトロールをするようになり、違反するとこれまた罰金をとられます。
学校で書類を作ると門限以降でも外にいて大丈夫というシステムがあり、何度か9時以降に街を自転車で走ったことがあるのですが、それは静かで非日常的で新鮮に感じました。
この門限制度には当初、デモや暴動が起こったものの、段々と当たり前になっていきました。
そもそもオランダでは夜遅くまで働くという事はほぼないので、9時以降、外にいる必要なんてほとんどないと思うのですが…

慣れてしまえば生活に困ることはほとんどなかったのですが、美容院が空いていなくて髪を切れなかったのは厄介でした。
また、寒くなって服を買いたくなってもネットでしか買えないのも不便でした。
スーパーが8時に閉まってしまうのは地味に困りましたね。
大抵学校が閉まる夜9時まで練習して家に帰るという生活をしていたのですが、そうすると帰りにスーパーに寄れない😮
日本のコンビニエンスストアが本当に便利だったと思う日々でした。

全体的には、そもそも生活が学校と家の往復だったので、慣れてしまえばかえってお金を使うこともなく不自由のない生活だった気もします。
外に出てしまえば自由という雰囲気だったので、ちょっと晴れて暖かくなった日には街や公園にたくさんの人が溢れました。
特にハーグのビーチにはこの時ばかりと人が集まり、これはコロナが収まらないだろうなーとその時は思ったものでした。

ビーチとその周辺の街並み、2021年3月

友人の家に集まるのも制限されました。一番強い規制の時だと1日に1名のみの訪問の許可。
家族やカップルだと少し大丈夫な人数が増えるものの、ホームパーティーなどは難しくなりました。
一緒に食事をとることを大事にするオランダの人たちにとっては厳しい措置だったかもしれません。

イベント・音楽活動はというと、オンラインの無観客イベントのみが許可されていました。
申請すれば補助金が出ることも多く、僕も一度オンラインのコンサートに参加することができました。
日本も文化庁が補助金を出していますが、オランダの方が簡素な手続きで申請できる感じがします。
採択も抽選だったりと、スピード重視の決済でなるべく事務手続きを少なくしている方針だと思います。
僕の周りでもたくさんの人が補助金を使ってオンラインコンサートをやっていました。

オンラインでの演奏会

□2021年4月~ ロックダウンの終わり

それまで、延長が相次いでいたロックダウンがようやく緩和されはじめました。それと同時にワクチンの接種が急速に始まりました。
街は長い冬が終わったような雰囲気に。
この時点でどうロックダウンを緩和していくかの段階的マップが示され、国民がどのように生活を戻していけるかが想像できるようになりました。(2ヶ月に渡る5段階の規制緩和が開示されました)
また、この緩和の判断には感染者数ではなく病院の逼迫率などが用いられていました。

4月28日、門限がなくなり、テラス席での飲食店の営業が許可されました。
街は途端にカフェでお茶をしたりビールを飲む人たちで溢れ、賑やかな街並みに戻ってきました。
みんなここぞとばかりに騒いでいたので、こんなに急に人が増えて大丈夫かなと思っていたら、案の定しばらく感染者は増えたり減ったり。
しかしその後、5月中頃になるとどんどんと波が落ち着いていきます。
これは一つにはワクチンの影響が大きいのかなと思います。
この頃になると高齢者への接種はほぼ終わり、40代もワクチンの予約ができるようになりました。

◯ワクチン💉
オランダのワクチン接種はとてもシステマチックです。
予約はGGDという日本の厚生労働省のようなところが全国一律に管理していて、レストランの予約くらいの簡単さで接種の予約ができます。
ホームページ上に、現在何歳からワクチンが予約できるかが表示されていて、それを見て自分が該当者だったらネットもしくは電話で予約。
オランダのDIGidという日本で言うマイナンバーカードのような物を使うことで、全てがそれにつながっているので、それさえあれば色々な手続きがネットですぐにできます。
驚くことに、ある程度年齢がいっている人もネットのこのシステムを使うことができていて、これはオランダ社会が早い時期からIT化されているからでしょう。
銀行の口座や住所などの情報、保険なども、全てがこのDIGidと結びついています。
本人確認がすぐにでき、簡単になんでも手続きできる、不正ができない、など便利なシステムです。
ワクチン接種は大規模接種会場で行われ、予約の時間にそこに行けばすぐに終わりました。
僕はヤンセンという日本では認可されていないものを接種しました。
これは一回の接種で完了するタイプです。幸い副反応はほとんどなく、次の日からリハーサルをしていました😄

ワクチンに対する考えは国によって様々ですが、オランダでは楽観的、好意的な意見が多いようです(若者の間でも)。
一つにはいろんな国の人が集まってきているので、打ってしまった方が現実的に便利という事は大きいのかなと思います。
思想より実利を取るというか、、仕事でも国をまたいだプロジェクトはよくある事なので、リスクよりも実利を取っている感じがします。
学校もワクチンの接種を積極的に推進していて、これもスムーズな学校運営の為ですね。
逆にドイツやフランスのような大きな国では、若者を中心にワクチン反対の動きが根強いと聞きます。
概して、オランダに住んでいる人は無頓着で楽観的なので、あまり将来どうなるかとか気にしない、あるいは思想的な反発なども少ない気がします。

□2021年6月~7月

この時になると、ほぼほぼロックダウンは終わり、どこのお店もやっている、自由な日常になりました。
屋内のマスク規制も公共交通機関だけになり、街のどこのカフェもくつろぐ人であふれるようになります。
ビーチに行けば、観光地のように人であふれ、サッカー、ユーロ2021?があると家でも外でもみんな騒ぎ出し、今までの鬱憤を晴らすように自由に暮らし始めました。
一時期、新規感染者がグッとあがりましたが、深夜12時以降のナイトクラブの停止という一見緩そうなルールを作ったら落ち着きました。

グッと上がってグッと下がる

そして、ヴァカンス。
オランダだけでなく、ヨーロッパ全体がワクチンを急いだのもこの為かと思うほど、多くの人がワクチンパスポートを使ってヨーロッパ内を旅行し始めました。
ワクチンがまだの人のためには無料のPCR検査場を大規模に設け、これも政府の作ったアプリに連動させスムーズに海外旅行ができるようなシステムを作り上げました。ワクチンパスポートです。
僕も留学の最後にヨーロッパ旅行をと、スイス、ドイツ、フランスを回りました。
格安航空会社を使いましたが、どの便も満席。
ヴァカンスはヨーロッパ人にとっては本当に大事なものなのだなと実感しました🛫

□帰国

そして、2021年7月末、日本に帰国。
トルコ、イスタンブール経由の便だったのですが、ちょうどオリンピックの開催中ということもあり、多くのオリンピック関係者と一緒に搭乗しました。 大体3分の1くらいが関係者だったと思います。
羽田に着くと、すぐにその関係者と日本人で動線が分かれ、そこからは一切の接触がないように配慮されていました。
報道では色々と言われていますが、日本の防疫はとてもしっかりしていると僕は感じました。
オリンピック関係者に関しては、飛行機が到着した後は完全に日本国民とは接しないように隔離されているので、オリンピック関係者から感染が広がるというリスクは抑えられていたのではないかと思います。

僕自身、飛行機到着後、検査をして飛行場を離れるまで6時間ほどかかりました。
噂には聞いていたものの、なかなかしんどかったです。
もう少し手続きが簡素化できればいいのになーとは思いながら、隔離生活に入ったのでした。

◎他のヨーロッパ諸国の印象

少し旅行しただけの感想ではありますが、ヨーロッパの中でも国によって規制や対応は様々でした。
例えばドイツはとても厳しい姿勢でコロナに臨んでおり、マスクも厳しいし、行動制限も厳格です。
いたるところに無料のコロナ検査場があるのも特徴で、抗原検査は無料で15分、PCR検査も半日ほどで結果を手に入れることができます。
フランスは友人からの話だと、ルールは細かいけれど、みんなどうにかルールをごまかして生活することに一生懸命だそうです(笑)。
若い人を中心にデモが多いのも特徴ですね。

コロナで沢山の死者が出てしまった国、イタリアやスペインなどの国も人々もやはりしっかりとした厳しいルールで対応しているようでした。

ということで長くなりましたが、僕が感じたオランダでのコロナ禍の様子。

次回は、まとめ編。1年間の留学で感じた事、日本とオランダの音楽文化、音楽社会の違い、そしてオランダが誇る自転車専用道路について!