サクソフォン奏者 坂口大介
大人の留学記

クローバー・サクソフォン・クヮルテット 
バリトンサクソフォン奏者
坂口大介のオランダ留学記【vol.7】
- SPECIAL FEATURE BY NONAKA BOEKI -

即興を通して

May 10, 2021

こんにちは、今月もオランダからのお便り。
気温は比較的低いものの、晴れの日が多くなり、街も人々も陽気になってきてオランダも春が感じられる季節になってきました。
特に4月になると時間が冬時間から夏時間に変わり(いわゆるサマータイム)、1日がとても長く感じられます。
例えば、日没が8時半くらい……そうです。
ずーっと昼が続き、夜にならないのです。
これはちょっと不思議な感じで、最初は戸惑います。
そして、1日がなかなか終わらないから、なんだか疲れます笑。
子供の時、時間がたっぷりあって、毎日が長く感じたあの感覚にちょっと近いかもしれません。

夜8時のオランダ。いつまでも昼です

オランダといえばチューリップ。
チューリップファームで有名な lisse という街に行ってみました。
家族連れが沢山来ていて、みんな記念撮影やらしていたのですが、ヨーロッパの子供はかわいくてそれだけで絵になるなぁと思いました。
あと、1 人でふらっと行って、ちょっと寂しくなりました🙃
でも素敵!

チューリップ畑と僕

今回は音楽のお話、インプロヴィゼイション。つまり即興についてです。
しかし、即興そのものについてと言うよりは、教育、音楽の勉強の中でのインプロの意味について僕が思った事を書いてみます。

◯historical improvisation <時代に合わせた即興演奏>

僕が履修している授業のひとつが historical improvisation。
この授業はクラシック、特に古楽の分野での即興を勉強する授業です。

historical improvisation の授業

古典派以降の時代では、クラシック音楽において即興というのは作曲家が隅々まで楽譜に音を書き残すので、 特殊で一般的ではないものという事になっていますが、バロックより前の時代では即興というのは音楽を演奏する上でもっともっと普遍的な行為でした。
バッハが即興の名手だったのは有名な話ですし、彼の息子(カール・フィリップ・エマニュエル・バッハ)が書いた有名なクラヴィーア教本では「音楽家たるもの、即興くらいできないとダメですよ!」と書いてあります。(大変な厳しいご意見)
即興といっても、ただただ自由に音を出すのではなくて、いろいろな作法があり、その中で音を紡いでいく事が一つの音楽的文化を担っています。
現代で言えばジャズという音楽ではコード、バース(サイズ)、拍子、そしてラテン、ブルース、バラードなど様々なスタイル、 それらの枠組みの中でいかにかっこよく音楽をするかが肝なわけですね。
他にも例えばボサノヴァにはボサノヴァの流儀があるし、世界にあふれる音楽、インド音楽にも アフリカの音楽にも日本の音楽にもそこに特有のルールや流儀があって、多かれ少なかれ即興というものは文化として組み込まれているわけです。
バロックにおいては Basso continuo <通奏低音> というものがあり、ornament <装飾(トリルやモルデントetc..たくさん!)>があり、 cadenza <カデンツ>、簡単に言うとフレーズを閉じる部分では即興は許されていたりと、 即興的な要素はその後の時代の音楽よりも沢山あるわけです。
ちなみにジャズと違うのはコード、和音ではなくバスとの音程の幅を使って音をとるという事ですね。
もっと古い時代では diminution といってシンプルな音と音の間を細かい音で即興的に埋めていく音楽もあり、様々な即興文化がありました。
興味のある人はぜひ調べてみてください🙃

そんな事を勉強しつつ、その流儀で即興してみよう!という授業なわけです。

◯即興を勉強する意味、意義

そもそも即興には二つの違った能力が必要だと思っています。
一つは頭の中になんらかの音楽をイメージできる事。
もう一つはそれを声や楽器で正確に再現できる事です。(ソルフェージュ的能力)
この二つは決定的に違う能力だと思っていて例えば、
絶対音感があって簡単に楽器で音を出せるのに即興は全然できないっていう人もいますし、 頭の中でなんとなく音は鳴っているけど、それを再現できない(僕はこのタイプ)人もいます。

二つの要素は多分、密接に繋がっているものの、自然にできない人にとっては正確には別々のトレーニングが必要で、 この辺りが即興を勉強して学ぶという事では難しいところだと思います。
(理想は遊んでいたらできたとか、真似していたらできるようになったというところなのですが)

僕の履修していた historical improvisation のクラスでは主に前者を勉強します。
つまり当時のスタイルを感じ、知って、頭の中でそのスタイルで音楽を作り、音にする。
クラスでは例えば、コードネームではなく番号付きバスを読んで音を紡ぐ練習、2人でカノンを即興でつくる、 当時のディミィニュションの教本を読んでそれを実施する、そんな事をやります。

【 diminution の教本、17世紀初頭イタリアの理論家 Francesco Rognoni による 】
【 即興的カノンの作り方 】

そうこう勉強しているうちに、半年の授業の最後に発表の場があり、10分くらい即興で音楽をしないといけなくなりました😱
僕がトライしたのは【 バッハのゴールドベルク変奏曲のベースの上でバロック時代のダンスのスタイルで即興する 】というもの。
僕はだいぶ昔ですが、カルテットでこの曲を録音、CDにまでしていたので、比較的やりやすいのかな~との思いでの選択です。

Goldberg variations
clover saxophone quartet
宣伝!webショップ等で買えます!

というわけで、その発表の為に四苦八苦、勉強、練習するのです。
何をやるかというとまずはそのスタイルが何であるかをわかる為に、いろいろな曲を分析しました。
僕の場合、バロックの組曲のプレリュード、メヌエット、アルマンド、ジーグのスタイルで即興する必要があったので、

• バッハの組曲や他の作曲家のそれを五線紙に書き起こして、特有のフレーズを覚えたり、何がそれをその音楽たらしめているか考えたりします。
• そして、誰かがそのスタイルで即興している動画を見つけてコピーしたりもします。
• それをふまえて、何回も即興を試みます。
• 最初は即興だとうまくいかないので、自分で一回イメージを楽譜に書きおこしたりもします。
• マイナスワンを作って、それと一緒に演奏したりします。
• 先生に難しいよーって言ったら、バロック時代のメヌエットの作り方という資料を送ってくれたので、一生懸命、それを和訳して読みます。

アルマンドの分析の汚いノート
メヌエットの作り方

そんなこんなでなんとか? 一応形らしいものが作れるようになり?🙃😣
素敵な友達の協力もあって無事プレゼンテーションを終える事ができました😊

オンラインでのプレゼンテーション
バロックヴァイオリン xiangli, キーボード cheng

即興ができるようになったかは別として😅、この授業を通して思ったのが即興をする為に勉強した事が、そのスタイル、音楽を勉強するのにとても有意義だという事です。
考えて、分析して、聴いて、イメージして、真似して、最後には自分の音にする。
特にこのスタイルを学んで、そのスタイルで作曲する、再構築するというのがすごく大事な行為に感じました。 

ジャズの音楽家はみんなこれをやっていると思うのですが、本当はクラシックでもすごく有益な勉強で、 きっと書いてある楽譜を演奏するにしても、自分の心と音符をぐっと近づけてくれる方法だと思います。
何より必要を感じて勉強するからとても能動的。
インプットとアウトプット、両方使うから脳も活性化されます。

そんなこんなで39歳ですが、楽しく今日も勉強しています😊

ではまた!

P.S 最近はYouTubeでパンダの子供を見るのがマイブームです。
和歌山のアドベンチャーワールド、日本に帰ったら行きたいなー。