サクソフォン奏者 坂口大介
大人の留学記

クローバー・サクソフォン・クヮルテット 
バリトンサクソフォン奏者
坂口大介のオランダ留学記【vol.2】
- SPECIAL FEATURE BY NONAKA BOEKI -

ハーグ王立音楽院

November 25, 2020

ハーグよりこんにちは!
11月。オランダに来て、もう2か月が過ぎました。

ヨーロッパの冬は暗いとよく言われますが、本当ですね(*_*)
日に日に陽が落ちるのは早くなり、今は5時をすぎるともう真っ暗。
夏が大好きな僕は、ますます濃くなる冬の気配に怯えながら、元気に過ごしています!

最近は自転車を買いまして、コロナの影響で人が少ない街中を練習終わりの夜遅く、 学校帰りに自転車で走る瞬間がとても気持ちいいです。
今回は僕の通っているハーグ王立音楽院の事と、音楽院のレッスンの事などを書きたいと思い ます。

ハーグ王立音楽院 Royal Conservatoire the haag ハーグ中央駅から徒歩3分!

僕が通うハーグ王立音楽院。
王立(Royal)と名がつくのは昔、オランダが王政であった頃の名残で、およそ175年前に当時のオランダの王様によって設立されました。
現在は私立経営になっていますが、王立の誇りと伝統があり、アムステルダム音楽院の学生にとってはそれが不快に思う人もいる様です。
(学生同士もあまり仲は良くない様子…)

学校の大きな特徴の一つは歴史の長い学校ながらクラシックだけでなく古楽・ジャズ・ダンス(バレエ)など、様々な科がある事です。それらが一つの建物に入っているので、交流も盛んです。
留学生が多いのも特徴で学生の8割が外国からの留学生。逆にオランダ人はあまりいない気がします。
世界各地から生徒が集まっていて、スペイン、ポルトガル人が比較的多く、アメリカや南米、アルゼンチン、ブラジルあたりから来ている学生もいます。日本人はほとんど見当たりません…
全員が英語でコミュニケーションをとっていて、授業も英語で行われます。

練習室:写真のスタインウェイのアップライトピアノ以外にも、珍しいピアノがたくさん置いてあります。 図書館:楽譜がそのまま開架で置いてあるので探すのが便利 食堂 ホール

学校には個人練習できる部屋、図書館、小さい食堂もあり、二つのホールもあります。
学校が駅前にあるため敷地自体は小さめ。日本の音楽大学のような大きな独立したコンサートホールはありませんが、その分、個人練習の部屋が沢山あります。

日本のようにコンサートホールというものがオランダには少なく、演奏会は教会やサロンなどで行われています。
音楽がより身近にあるとも言えるし、逆に日本のように音楽ホールが沢山あるのは恵まれているとも言えるのかもしれません。

[ レッスン ]
僕は大学にクラシックサックスで所属しているのですが、同時にアーリーミュージック(古楽)のレッスンと授業も履修しています。
クラシックのレッスンは毎週あり、古楽のレッスンが3週間で2回。
他に毎週、オーナメント(装飾法)、historical improvisation(古楽の作法での即興)、early music study(古楽の文献を基に、どう捉えるかを討論する授業)、practicum polyphoniæ(中世の歌を当時の楽譜で歌う)などの授業やレッスンを受けています。

それぞれ授業毎にしっかり課題が出るのでけっこう大変ですが、どれも初めての経験なのでとても面白いです!
古楽のレッスンについてはまた次回。
今回は、主科で受けているクラシックサックスのレッスンについてお話ししたいと思います。

ラーフ先生の自宅にて

僕のサックスの先生がラーフ先生(Raaf Hekkema)。
ハーグにはラーフ先生とドイツ人のラース先生(Lars Niederstraßer)がいてサクソフォンのクラスはこの2人の先生でレッスンを行っています。
どちらの先生のレッスンも受けることができ、都度習いたい先生を選べるというフレキシブルなシステムです。

[ 主に習っているラーフ先生のCD ]

パガニーニのカプリス、循環呼吸、ハイトーン、歌いながら吹いて二声の音楽を再現するなど
当時としては画期的な表現が満載でした
バッハのチェロ組曲を様々な楽器で演奏

ラーフ先生はパガニーニのカプリスを録音した事で一時期、日本でも有名になった方で 最近はバッハのチェロ組曲やヴァイオリンのパルティータなどをヴィンテージの楽器で演奏するのに凝っています。
また、クラリネット、バスクラリネット、バズーン、サックスによるリードクインテット calefax を主宰しており、今年で結成35年。
クラシックの編曲作品からこの編成の為のオリジナル作品。現代、古楽まで膨大なレパートリーを持っていて、年間数多くのコンサートを国内外で開催しています。

カルファクス・リードクインテット

ラーフ先生はいわゆる天才型。(弟子が言うのも失礼ですが…)
自分のスタイルを独自に編み出し、現場での経験でそこに必要なものを自分で開発してきたタイプです。
例えばスケール、音階練習、エチュードなどはほとんどしない、勧めないタイプ。
曲の中で必要な事を練習して、それをその時に習得する事で自身のテクニックを培ったそうです。基礎的な事より音楽的な事を考える方が有意義であるという考えですね。

逆にもう一人の先生、ラース先生は奏法や基礎を大事にするタイプ。
対照的な二人がいるのがとても面白いです。ちなみにお二方とも練習はものすごく沢山しています。日本でも天才タイプの奏者をたまに見かけますが、うらやましい限りです。
パガニーニを数々の特殊奏法を交えて演奏し、同時にリードクインテットという極めて繊細で クラシックな室内楽もできる。素晴らしい先生にオランダでも出逢えてとてもうれしいです。

レッスンは音楽的なアプローチにつきます。
ディテールと同時にスタイル。楽曲の大きな構成感。どういうプランで演奏するか。
その点を重視しながら進めていきます。
たまに技術的な事を質問しますが大抵、アバウトな返事が返ってきます(笑)
(*循環呼吸のコツを聞いた時の答えは「とにかく吹くのをやめない事」でした(笑))

ラーフ先生の印象的な言葉で
「よく音楽を分析し、計画し本番はそれを全部忘れて感覚で演奏する」
と話していた事があり、理論と感覚の両立が彼の音楽の大きな魅力だと思います。

更にサラっと吹く見本が素晴らしく、やはりそれが一番勉強になります。
特に音色の作り方は素晴らしく、これはリードクインテットという他の木管楽器と一緒にアンサンブルする事で培われたのだろうと想像します。 ちょっと偏屈なところもありますが(笑)、 そのあたりも独自の音楽性、活動に深く現れていて魅力ある音楽家の一因となっています。

僕にとってはとにかく、レッスンを受ける。
しかも毎週受けるというのが久しぶりで新鮮なので、とても楽しい毎日です!

学生時代の頃を思い出しながら、なかなか英語もうまくしゃべれず、大変な時も沢山ありますが、くじけず!アラフォーの学生のんびりやっています( ・◡・ )♫

[ オランダでのコロナ事情について ]
最後にオランダのコロナの状況について少し。
オランダでは現在、1日に10,000 人ほどの感染者が出ていて、どんどん増えています。
現在レストランはテイクアウトのみ。
コンサート、スポーツなどは無観客での開催。オランダでも厳しい状況は変わらず。

一方、ヨーロッパは今、どこの国も大変な状況ですが、オランダ人は特に縛られるのが嫌なようで、 色々な規制があるものの昼間の街中は人が溢れ、マスクをしている人はほとんどいません。

幸い学校は9月以降休む事なく開いており、授業もオンラインと半々ではありますが 感染対策をしながら通常に授業が行われています。
国民性からヨーロッパでコロナを抑えるというのは難しいだろうと思いつつ、日々、自分なりに気をつけて生活する毎日です。
これからインフルエンザも流行る季節になって来ていますので、日本の皆さんも感染対策を怠らず体調管理には気を付けてください!

ではまた来月!