インタビュー
INTERVIEW

marigaux

目立ちたいとき、溶け込みたいとき、
それぞれ無理なく吹き分けられる楽器
坪池泉美さんが語るオーボエ901Cの魅力

上管ボディにコンポジット材を使用したマリゴオーボエ901Cが、最近、プロ奏者やハイアマチュアの注目を集めています。昨年の秋にご購入されたNHK交響楽団オーボエ奏者の坪池泉美さんにお話をうかがいました。


坪池泉美さん

小学生のときはアルトサックスを吹いていました。中学校の吹奏楽部でも続けるつもりだったのですが、オーボエが空席になった際に顧問の先生から勧められて、軽い気持ちで始めました。最初はサックスと息の入り方が全然違うので苦しくてたまりませんでしたが、母によると、中学3年のときには「将来ソロでやっていこうか、オーケストラでやっていこうか」と私が本気で悩んでいたそうで…(笑)

その後、芸術コースのある私立高校に進学しましたが、その中学3年ときの志をすっかり忘れてしまっていた頃、指導にいらしていたクラリネットのプロ奏者に勧められて芸大を受験。一浪しての合格でしたが、今となってはそのクラリネットの先生も「まさかN響までとは思ってなかったよ。」とおっしゃいますが、私も「私こそ思ってもいませんでした!」と、なんだかまわりの皆さんのおかげだけで今日まできてしまった感がありますね。

初めてマリゴを手にしたのはちょうどドイツ留学中だった10年前。多くのオーボエ吹きにとってマリゴは特別の存在ですが、私にとっても、いつかは吹いてみたいあこがれの楽器でした。購入したのは901です。その901でN響のオーディションも受けたのですが、そのあとのトライアル期間中ずっと「音が小さい」と言われ続けていて、それが悩みでしたね。買ってから既に7年くらい経っていたので、新しい901にも買い替えましたが、まだ少し足りないなと感じていたところでした。

坪池泉美さん

そして今回購入したのが901C。上管がコンポジット製ボディの901Cの噂は、留学時代のドイツの友人からも聞いていましたが、実際に試したのは昨年の夏のIDRS(国際ダブルリードフェスティバル2015東京)が初めてでした。その時は演奏やボランティアの仕事であわただしく、ゆっくりと試すことはできませんでしたが、悪くはない印象でした。そして数ヶ月後、今度はお店でじっくり、普通の901とコンポジットの901Cを吹き比べてみました。

「断然コンポジットの方が良い!」マリゴの音色はそのままに、輪郭がよりくっきり見える音です。クリアに響いて音の通りも良く、それでいて、たとえば2ndオーボエのときには1stオーボエにきちんと寄り添うことができます。目立ちたいとき、溶け込みたいとき、それぞれ無理なく吹き分けられる楽器です。吹奏感も文句ありません。若干、木製よりも抵抗感があるように感じますが、そのおかげで、均一にムラなく鳴ってくれる。息に反応して楽器がいきいきと鳴ってくれます。

オケのセクションの方たちからは試している時から、「全然違う」「絶対にこっち」と口々に言われましたし、ある時エキストラで参加したオケでは1stオーボエを吹く機会がありましたが、友人のホルン奏者から「音がよく聴こえるようになった」と言われました。見た目にはほとんどわからないので、私がコンポジットに替えたのをまだ知らない人も多いと思いますので、知ったら驚かれるかもしれませんね。

マリゴオーボエ901C

日本はまだまだコンポジットというだけで受け入れられにくい状況がありますが、海外ではドイツをはじめとする多くの国で次第に使用者が増えてきているそうです。合理的に考えるドイツ人たちにとっては、冬の寒い教会で吹く機会が多いことを考えると、ひび割れの心配がないというのは大きなメリットなんですね。

それから狂いが少ないのも嬉しいですね。木製の楽器の場合、息を入れると湿気を吸ってボディ自体が膨らんだり縮んだりを繰り返し、長く使っているうちに変化していく。その変化が面白い場合もありますが、コンポジットの場合は、最初のベストの状態がずっとキープされますから、あれこれ心配せず演奏に専念することができます。ただし、コンポジット製だから頑丈だということではありませんから、決して乱暴には扱えません。ぶつけたり、落としたりすればキーだけではなく、ボディも破損する恐れがありますから注意は必要です。

使い始めて5カ月ほどになりますが、今の私にはコンポジットに対する否定的なイメージ、偏見は一切ありません。もし欠点をあげるとすれば、少し価格が高いことくらいでしょうか。しかしそれは、この管体がコンポジット製だからと言って型にはめてポンポンと出来るわけではなく、かえって木より硬く扱いが難しい素材を木同様に1本ずつ加工することを考えたら仕方がありませんね。それに、木製の場合に将来必要になる調整や修理の費用を想定すれば、決して高いとは思えません。

私は楽器を購入する際は、実際に吹いてみることが大切だと思っています。今回も噂やカタログだけの知識だったら、このコンポジットを選ぶことはなかったと思いますが、実際に吹いてみてまったく迷いがなくなりました。そして今ではとても頼りになるパートナーを得ることができたと思っています。
これまでは導いてくださる先生方や強運だけで生きてきたといっても過言ではないのですが、今後はもう運に頼れるほど甘い世界ではありませんので、この楽器に助けてもらいながら努力し、演奏を楽しんでいきたいと思っています。


坪池 泉美 つぼいけ いずみ

神奈川県出身。
2004年東京芸術大学音楽学部卒業。
2005年ドイツ・カールスルーエ音楽大学入学。
2009年同校にてディプロム、マスター課程修了。
2005年第22回日本管打楽器コンクール入賞、同年ドイツにてリヒャルト・ラウシュマンオーボエコンクール入選。
2010年第79回日本音楽コンクールオーボエ部門入選
これまでにオーボエを和久井仁、小畑善昭、松山敦子、オットー・ヴィンター、トーマス・インデアミューレの各氏に師事。
2010年より日本フィルハーモニー交響楽団オーボエ奏者を務めたのち、2014年よりNHK交響楽団団員。洗足学園音楽大学非常勤講師


◆Marigaux Oboe 901C

↓詳細はこちら↓
http://www.nonaka.com/marigaux/instruments/oboe/index_901c.html

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