インタビュー
INTERVIEW

ルードヴィッヒ・フランク
(ルードヴィッヒ・フランク社 / アドラー・メーニッヒ社 両社長)

〜LFのファウンダーに訊く「ドイツ木管」への想い〜

ルードヴィッヒ・フランク日本を代表するスター・オーボイストとして名声を博し、その絶頂において衝撃的な引退を表明して話題を呼んだ宮本文昭氏。現役最後のステージを彼とともに過ごした楽器には、「LF」というシンプルなロゴが。これまで「シュプリンガー」というブランド名のもとで数多くの名作を生み出してきた名工ルードヴィッヒ・フランク氏が、自らの名を冠してスタートした「新しい、だけど伝統のある」ブランドが「LF」なのである。随所に金メッキを美しく施したデザインが目を惹くが、世界で最初にこういった手法を採用したのは同社だそうだ。「このオーボエのアイディアが、のちにクラリネットなどにも応用され世界的に有名になったのですが、これは見かけだけの問題ではなく、豊かな音色の造成にも貢献しているのです」。金メッキキー仕様のモデルのみならず、通常の仕上げのモデルでもキーポストにまで金メッキが施されている。「こういったアイディアは、フルートのリッププレートを金メッキにして好結果を得た、という実例に学んだんです…」そうおだやかに語るフランク氏は、意外にホットな職人人生を歩んできたのである…

ルードヴィッヒ・フランク現在、135年の歴史を持つ木管楽器製造メーカーの雄「メーニッヒ」。フランク氏はまず業界人としてのキャリアを、他ならぬその「メーニッヒ」の「職人」として歩み始めた。1979年のことだった。
「もともとはオーボエを吹いていたんです。が、両親も音楽には造詣が深くて(父は指揮者、母は州立歌劇場の歌手)、オーボエ奏者として一家を成すのがいかに大変なことかを熟知していたんです。それで、将来奏者としていくべきかどうか悩んだ結果…」前述のとおり、当時の東ドイツにおける最大のブランドであった「メーニッヒ」をスタートラインに選んだ、というのだ。

 その後「壁」が壊れる一年前に亡命してチュービンゲンの木管楽器工房で研鑚をつみ、さらに時を経ずして1991年の5月1日に独立し、シュプリンガー氏とともに木管工房をたちあげる。彼はオーボエに対するさまざまなアイディアをもっていたが、それを初めて見事に具現化する腕を持った職人がフランク氏だった。優れたアイディアと卓越した技術をもつこのコンビは瞬く間に名声を博し、先述の宮本文昭氏との出会いで一気に世界的ブランドとして知られるようになる。創業の一年後、1992年のことだった。しかし皮肉なことにその年、「シュプリンガー」は倒産の憂き目に遭う。が、フランク氏は…

ルードヴィッヒ・フランクドイツが産んだ木管のマイスターに熱い思いを燃やすフランク氏はまよわず自社を「買う」という「暴挙」に出る。「どうしてそんな損な事をするのか、と笑われましたよ」と苦笑するフランク氏。一介の使用人が、オーナーとなったわけだ。「戦前から素晴らしい水準を誇っていたドイツ伝統の木管楽器製造の歴史を、ここで絶やしてはならない…それだけが私の思いでした」。その後、やはり倒産した「アドラー」「メーニッヒ」を1999年に買収し、今や一大「木管製造工房集団」となった感のあるフランク氏のチームだが、ドイツ伝統の粘り腰のある職人魂は健在だ。「どれも愛着のあるブランドです。しかし、再開したばかりのころは、君のところで優れているのはケースだけ(笑)なんて酷評されたものです」。しかし、じっくり試作と試奏を重ねたフランク氏。酷評を続けていたある「人物」にいたっては、ついに11年後に「愛用者」として名乗りをあげることになった、という。その人物とはギュンター・パッシン氏。音色について最初からOKサインを出していたものの、その他の点について厳しかったパッシン氏は、茂木大輔氏の師匠としても知られる名伯楽(優れた弟子を育てる名手)である。

パッシン氏をはじめ、たくさんの名手からの意見にじっくり耳を傾ける、というのがフランク氏の語る唯一のメソッド。「どんな小さなことでも聞き逃さない、というのが改良につながるのです」そして生まれたのが、もっとも新しいオーボエ『ブリラント』。これまでのモデルと一見して異なるのは、そのベルの形状だ。「こういったユニークなベルの形状も、たくさんの名手との会話から生まれてきたものなのです」。これまでの形状では、ベルの部分の素材が薄く、音色の深みが失われる結果となっていた。『ブリラント』のベルはバロック時代の楽器に似ているが、音色の向上と美的センスをバランスさせていった結果、こうなっただけだ、という(つまり「バロック指向」というような単純なものではないのだ)。

また、バッハのカンタータや協奏曲でその独特の音色が愛されている「オーボエ・ダモーレ」のような「特殊管」にも深い愛情を注いでいるのもフランク氏ならでは。ベルリンフィルが世界に誇る名手、アルプレヒト・マイヤー氏とのコラボレーションによって生まれた最新モデルには、通常のベルのほかにユニークなストレートの「替えベル」まで用意されている。「このストレートベルは、あのワーグナーがスケッチだけを遺していた「アルトオーボエ」のアイディアを具現化しようとした試みから生まれたものなんです」。通常のものよりも、たくましく明るい音色が特長なのだ、という。「楽器開発には『これで終わり』ということはありません。当たり前のように思っているところにも熱烈な関心をもって研究を重ね続け、腕を磨きつづけ、改良を続けることが、ドイツ木管製造の真の伝統なのです」


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